ゆうべつ@サッポロ/虎豆スイーツ

 今回は虎豆の話です。ん、虎豆? と思う方もいるかもしれません。実は、札幌市や北広島市で4月、湧別町の特産品などをPRするイベントがあり、虎豆を使った「とら豆ブリュレ」と「とら豆抹茶プリン」が出品されていました。販売しているのは、地元湧別町の「沢口産業」です。本業の土木や建築、運送をはじめ、温泉やスキー場、ゴルフ場の運営なども手掛ける会社が、なぜ虎豆でスイーツなのか。そもそも虎豆と湧別のつながりがよく分からなかったこともあり、興味がわきました。

札幌市のイベントで販売された、とら豆スイーツ=HTB「onちゃんテラス」で
札幌市のイベントで販売された、とら豆スイーツ=HTB「onちゃんテラス」で

 イベントで宣伝に訪れていた取締役統括マネージャーの松原斗志子さんに伺うと、3代目社長の吉田昌子さんの「あいさつに行くときの手みやげがほしい」という願いが始まりだったといいます。そして、虎豆は「町内でも多くの家で作っていて、よく煮豆で食卓に上がった」といい、「うちのおばあちゃんの豆」とも呼ばれる、地元で親しまれてきた豆だったそうです。

「煮豆の王様」とも言われる虎豆

 虎豆はその名の通り虎模様が特徴で、日本豆類協会のホームページで「北海道では大福豆や白花豆・紫花豆とともに高級菜豆(さいとう)と呼ばれる」と紹介されています。なんと「煮豆の王様」という"称号"まで持っています。
 沢口産業は自社で畑を所有し、以前からアスパラを生産、出荷するなど農業にも深くかかわってきました。2016年ごろからは、昨年亡くなった先代社長の吉田耕造さんの「面白そう」という思いつきで、虎豆や白花豆などを育てていました。そんな中で「手みやげ」の話が出たことが、町民になじみが深く、手軽で食べやすい虎豆の煮豆を使ったスイーツにつながったといいます。

 担当したのは取締役総務部長の伊藤幸子さん。豆は町内産にこだわり、取締役土木部長の松橋英樹さんらとともに畑づくりを進めながら、町内の農家や親類にも栽培をお願いした。製造は千歳市に工場を持つ東京の田中製餡に委託することにして、札幌市の福山醸造の協力も得て2020年12月に製品化に着手しました。最初に作ったブリュレは、程よい甘さに煮た虎豆がごろごろ入っていて、お好みで振りかけるカラメルクラッシュ付き。虎豆畑をデザインした箱に入っています。

沢口産業の畑で栽培されている虎豆=伊藤幸子さん提供
沢口産業の畑で栽培されている虎豆=伊藤幸子さん提供

 翌年3月に初めて製造した2千個は1か月足らずで売り切れ、「本当にあっという間で、びっくりしました」と伊藤さん。2年目は5千個に拡大し、これも売れたが、追加した5千個に余りが出た。窮余の一策で、伊藤さんがラジオ番組に投稿したところ、多くのリスナーや町民が買ってくれて、無事完売できたそう。昨年から「とら豆抹茶プリン」が加わり、各5千個を製造し、町社会福祉協議会を通じて高齢者向けに1千個贈った。今年は各3千個の販売を目標にしています。

 伊藤さんは吉田昌子社長の妹で、先代の耕造さんは実父。耕造さんもブリュレを食べて「おいしい」と喜んでくれたそうです。「虎豆スイーツ」に導くかたちになった「父の思いつきに感謝しています」と言い、「身近で昔から作られていた虎豆が消えてしまうのは惜しいので、これからも栽培を続けたい。町の人にも町を訪れる人にも、スイーツをおみやげに町の話題で盛り上がっていただけたら、うれしいです」と話しています。息の長い特産品になるといいですね。

「とら豆ブリュレ」(右)と「とら豆抹茶プリン」
「とら豆ブリュレ」(右)と「とら豆抹茶プリン」

※ブリュレ、プリンとも1個350円(税込み)で、町内の道の駅などで販売されています。札幌市では前回のホタテで紹介した狸小路のモユクサッポロ1階「OMOTASE-HONPO」(おもたせほんぽ)で扱っていますが、残り少なくなっています。

(取材・文/ふるさと特派員 島田賢一郎)